霧の508メートル

6d86ebee.jpg3年ぶりの台北はずっと曇/雨で、撮影もほとんどする気にならず、単なる気分転換をしに行ったようなものであった。気温は10度台前半まで下がったりした。その割に湿度は高い。だから何だか東北地方の冷たい梅雨時の空気の中にいるようであった。緑色の濃い亜熱帯植物と、植物園を駆け回る腹の赤い台湾栗鼠だけが目の慰めとなった。

街の最も高い建物からその街を眺めるのが好きだと思えた時期があった。しかしよくよく考えてみると何が何でも高いところに登りたいわけではなく、たとえば悪天候による視界不良の時や、展望台を目指す人があふれかえっていて長時間待たされそうな時などは、行動の優先順位は割と簡単に下がってしまう。だから今回も、その高さが500メートルを超える現在世界1位のビル「台北101」には登らずに、毎日ただ下から眺めていた。

もっとも俯瞰風景を楽しむ最適な高さというのは必ずあるのであって、たとえば東京タワー。より高い特別展望台の方が下の展望台よりも風景がよいかというと、必ずしもそうとは言えない。経験上、だいたい100からせいぜい150メートルぐらいがちょうどいいのではないかと思っている。それ以上高くなると、俯瞰風景はだんだん概念的になっていく。200メートルを超える高さからの風景は、もうどんどんディテールを失って単純操作が可能な模型的対象にすら見えてくる。そしてこの模型的な視覚、というのは今般の現代写真のテーマのひとつになってしまっているのだ。模型的・・・その見え方の是非を考えるより先に、人はなぜ模型を作り、眺め愛でるのかということを、まず考えてみないといけないのだろう。

この「台北101」は2年半前にできたばかりだ。しかしもうこの夏には、現在ドバイに建設中の何とかいうビルに世界一の座を明け渡すことになるのだそうな。

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