お正月でちょっとボケっとしたくなったので、本棚からベッヒャーご夫妻の「TYPOLOGIEN」を取り出して眺めていた。タイポロジー総集編、という趣旨の276ページの大部の重量級写真集である。一昨年ベルリンで買ってわざわざ担いで帰ってきた(←よほどうれしかったんだね)。今までご夫妻の写真におかれましてはいろいろと語られているわけだけど、その撮影スタイルの一貫性にはとにかく舌を巻いても巻ききれるものではなく、わたしなぞは他にもう巻くものもなくなってしまって、滅多なことでは写真集を開くこともなくなっていたですよ。で、大体のところは、必ず曇り空をバックに大型カメラでアオリを効かせてとにかくちゃんと撮る云々、というスタイルであって、そういうもんだよなあと思って特にそれ以上、写真から何らかの撮影方法の痕跡を引き出そうとかそういうオタクなことはしたことがなかった。で、本日あることに気がついた。
考えてみると、曇った日しか撮影できないというのはいくら何でもひどいのではないだろうか。いろいろでかけたり撮影許可取ったりという都合のある中で、「あ、今日は晴れちゃったんで撮影やめます」というわけにはいかんだろうと思うわけだ。クロサワとかじゃないんだからさ。今まで限定された量の作品しか見ていなかったから、ご夫妻の撮影方法って「プロセス重視」だと勘違いしていたような気がする。つまり撮影の何十倍もセッティングに時間をかけるタイプの撮影方法ということ。でもこの膨大な量の30年以上の写真群をつぶさに眺めていると、結構ホイホイ撮っているような面もある、というのが見えてくるのだ。そしてさらに大きな発見。それは何と「晴れてる日に撮ったのもある!」
この雲の写り方は、どう見ても「晴れ」というのが何枚も見つかった。そういう目で見て行くと、背景がやたらと霞んでいる写真が多いことに気がつく。晴れても空が白くなる&背景が霞む、といったら、これは紫外線の成せる技である。普通はカットする紫外線から青にかけての短波長の光を、ご夫妻は最大限に利用している、というわけだ。
モノクロ写真を定石通りにやった人間なら誰でも知っている通り、基本的に紫外線は悪者であって、それをカットするために黄色いフィルタを入れたりする。さらに青をカットして空を暗くするためにオレンジ、赤などのフィルタを入れたりもする。普通売ってるモノクロフィルムの感度が、可視光領域のほとんど全体をカバーしているためにこういうことができるのだ。ではその逆はどうするか。青いフィルターを入れればいいって?残念でしたー。オルソクロマチックという感光特性を持ったフィルムがあって、それを使うのですね。つまりご夫妻はオルソフィルムを使ってらっしゃる、というのが見えてきた。これだと赤黒い鉄の表面なんかは真っ黒に落ちて、背景の山や草なんかは明るく写る。
そういえば、ご夫妻のスタイルの範は20世紀初頭の「工業写真」にあるというのをどこかで読んだような気がする。つまり機械や工場を撮ったいわゆる「竣工写真」ですね。当時のフィルムはオルソか、あるいはもっと感光領域が狭くて青い光にしか反応しないものだったため、昔の写真は必ず空が真っ白なんだね。

佐藤淳一【カワウソ写真家】 [著者情報] 実はカワウソに限らない写真家。平成19年度宮城県芸術選奨受賞。主な著書に『恋する水門』(2007年/BNN新社)、『ドボク・サミット』(共著/2009年/武蔵野美術大学出版局)、『カワウソ』(2010年/東京書籍)他がある。展覧会は『ニーダーフィノウの鉄の骨』(2006年/Gallery Maki)、『アートみやぎ2007』(2007年/宮城県美術館)、『カワウソおもろいねん!』(2013年/海遊館)、『大都会の野生カワウソ』(2018年/埼玉こども動物自然公園)他、1995年より多数開催。雑誌『ワンダーJAPAN』、『土木技術』、スポーツ紙『東京スポーツ』で写真と文を連載。『タモリ倶楽部』(2008年/テレビ朝日)、『出没!アド街ック天国』(2012年/テレビ東京)等に出演。「生きることは、見ること」が信条。芸術と研究を足してサブカルで割った「リサーチ・エンタテインメントとしての写真」を専門とし、土木構造物と野生動物という、かけ離れたふたつの領域で仕事してきました。
