
Zoo Basel
スイス、バーゼル動物園のコツメカワウソ展示。同じ空間にいるのはヴィサヤンヒゲイノシシ(Visayan warty pig ← いまだに和名がはっきりしない。warty pigは直訳でイボ豚とも言える)。撮影は2018年8月。
実はコツメと混合展示になっている動物はイボ豚だけではない。インドサイとキョンが広大な放飼場でコツメカワウソと同居しているのである。展示全体の様子など、詳細は以前に書いた。

インドサイは別として、大して人気者とは言えないこれらの動物が、これだけの規模で、いろいろ手がかかるであろう混合展示となっているのは驚異である。

異種混合展示と聞くと、なぜだかワクワクする。姿形の違う複数種の動物が、同じ空間で展示されているのは、動物園展示におけるひとつのロマンなのだろう。
かつて若生謙二氏が『動物園革命』の中で、小学館の『動物の図鑑』における生息地ごとに、まさに異種混合状態で描かれた図版から受けた影響のことを書いていた。子供の頃にこの図鑑で全く同じ体験をしたわたしも、同じ生息地の動物は同じ空間で一緒に展示されるのが良い、という価値判断をするように刷り込まれているらしい。
動物園と水族館はいつも何となく同じカテゴリーとして語られてしまうが、実は水族館においては異種混合展示がむしろ普通の状態である。つまり異種混合展示は、園と館の間に線を引く要素のひとつにもなっていることに、今さらながら気付く。

手前からインドサイが歩いて行く。コツメもイボ豚も奥に見える鉄柵は通過できるので、この柵はインドサイをコントロールするためにあるのだと理解できる。コツメもイボ豚も関わり合いになりたくないようで、柵の向こうへ退避している。

2018年の記事にも書いたのだが、ここでコツメカワウソをメインのモチーフとして撮影しようとすると、むちゃくちゃに苦労する。特にこのウッドチップ(考えてみると凄まじい量のウッドチップではある)の敷かれた広い空間にいるコツメは、見ての通り全く絵にならない。
もちろん、バーゼルの展示はコツメ用の周回水路を設けてあり、そこをちょろちょろ泳いだり走ったりする姿を撮影できたのは楽しい経験だった。
Zoo Zürich

同じくスイス、次はチューリッヒ動物園。ここではユーラシアカワウソは通常の展示だが、コツメカワウソの役割がすごかった。何とインドライオンと組まされているのである。

詳細は2018年の記事↑をお読みいただくとして、ここでわたしは大きな失敗をしている。肝心のインドライオンが撮影できていないのである。目視はしているが後回しにしようと思っているうちに姿が見えなくなっていた。その代わりに現れたのがコツメだったので文句はないのだが、この展開をはたして異種混合展示と言っていいのかどうか、ちょっと微妙ではある。おそらくは同じ展示場を時間交代で使うスタイルだったのだと思うが、それを確かめるために再訪する機会を持てないまま、すでに8年も経ってしまった。

屋内展示部分。明らかにコツメカワウソにはオーバーサイズの、頑丈な立木型遊具や樹根に囲まれ、所在なさげにしているカワウソたち。あちこちに爪研ぎの跡が見られるが、コツメは爪研ぎなどしないし、痕跡の高さがコツメの身長と合わない。ちょっと前までここにいたはずのインドライオンの存在感が場の空気を引き締めているようだった。
Zoo Schwerin

次の異種混合展示はドイツのシュヴェリーン動物園。ここではユーラシアカワウソがレッサーパンダと同じ空間で暮らしていた。(多分)泳がないレッサーパンダと、(あまり)木登りしないユーラシアカワウソは、同じ場所にいても三次元的に行動エリアが交わることなく、共存できるという構造である。生息地は、まあ被っていると言ってもいいのかもしれない。微妙な地図表記に注目。

日本の動物園でもレッサーパンダは多く飼育されているので、これはできそうだなとうっかり思った。しかしだ、日本でレッサーパンダとカワウソがいる動物園の多くは、カワウソがコツメカワウソである。ユーラシアに限定すると、実は那須どうぶつ王国と安佐動物公園しかないんじゃないか。コツメもネパールにいるし、生息地がご近所ということでいいことにして、という強弁も可能かもしれないけど。
【2026.06.15 追記】上野やズーラシアもその組み合わせでしょ、というご指摘を早速いただきました。あまりにメジャー過ぎて視界に入ってませんでしたすいません…

実はここでもわたしはミッションをコンプリートできていない。レッサーパンダとカワウソを同時に撮れていないのだ。居場所の高度差があるので、両者を同じフレーム内に入れて撮るのは、ひたすらチャンスを待たねばならないのだろう。それは遠くからの旅行者には難しい。
サンシャイン水族館
さて、スイスとドイツの例ではあまり参考にならない、という気もするので、日本とご近所の事例もまとめておこうと思う。
わたしの撮ってた一番古いカワウソ異種混合展示は、何とコツメとリスザルだった。2009年9月撮影。

サンシャイン水族館がまだサンシャイン国際水族館だった時代だ。上の記事↑の12枚目の写真にリスザルが写っている。今の感覚からすると生息地が全く違うコツメとリスザルという組み合わせはどうかと思うわけだが、ここでは「可能であった」という事実を記憶しておきたい。これも高度差による同居実施の実例と言えるだろう。
福岡市動植物園
次は福岡市動植物園。現在のコツメカワウソ展示ができた2013年からしばらくの間、隣のシシオザルのエリアへ、コツメが入り込むことができた。

シシオザルは泳げないので、両者のエリアの水場の仕切りに水中で穴を開ければ、カワウソだけが水中で行き来ができる、という簡単だが確実な構造である。これはいつまで使われていたのだろう。
現在でも上方のビントロングのエリアとの間は仕切られていないような気がするのだけど。一応、異種混合展示が継続していると思いたい。
Singapore Zoo
ビントロングといえば昔のシンガポール動物園である。もう何世代か前のコツメ展示は、ビントロングと同居だった。こないだも出てきたこの2005年撮影の記事↓

これを見るたびにシンガポール動物園のその後20年の発展はすごかったなあと思うのだ(そして現在も発展継続中)。
ときわ動物園
日本国内で最も成功している異種混合展示はもちろん、ときわ動物園。

10年以上にわたって安定して共生が継続しているのは、もう素晴らしい!としか言いようがない。
タイトルに「光と影」なんて入れたもんだから、どこが光でどこが影なのか、みたいな読み方をされてしまいそうだけど、そういう意味は全くない。物事にはいろいろと事情があるのだから、始めたりやめたりというステータスの変動については、あまり気にしないことにしている。
Tierpark Hagenbeck
さてこの記事の最後に、ハンブルクのハーゲンベックのコツメとオランウータンの混合展示をご覧いただこうと思う。以下の写真はブログでは初公開である。実は2019年の3月に埼玉県こども動物自然公園で講演会をやらせていただいた時、「ヨーロッパのカワウソ展示 異種混合飼育あれこれ」という題で、来場の皆さんにだけお見せした、という経緯がある。
別にもったいつけたかったわけでも何でもない。2012年に行ったときはコツメが子育て中で出ておらず。2015年にリターンマッチを期して再撮影に行ったのはよいが、ブログをアップするのをサボって、コツメとオランの共生の話は長らくお蔵入りになってしまっていた。情けない理由で申し訳ない。以下はそのリターンマッチ編、である。

この実に誇らしげなハーゲンべック動物公園のコツメカワウソ+オランウータン展示。表示板上では両者、対等なんだけど。

この展示、可動式ドームになってて中央の島の部分にオランウータンがいる。コツメは水路をわたって島と周囲のエリアを自由に行き来できるようになっているのだ。ドームの構造については2012年に撮影に行ったときに書いている。

この時↑はコツメが子育て中で出ていなかったわけ。記事タイトルに偽りあり、だな。

ここでの撮影の難しさを物語る一枚。コツメを最適なスケールでフレームに入れると、オランは写らないわけで、両者を同じフレームに入れようとすると、基本的にこういうスカスカな写真にしかならない。

オランが樹上に移動するとコツメが島に上陸する、というような関係なのか。

コツメから見たら結構広いので、気にせず普通にガンガン泳いでいる感じ。オランが水に入ってくることはないとわかっているのだ。

おトイレ中失礼。これがコツメ専用エリア。水路の向こうにいるオランはこちらには入れない。ちなみにこの手前は人間用のカフェエリアになっており、もし名前を付けるとしたらカフェ・キネレウスか。

まあ基本的にこういう距離感なのだろう。岸のロープは何のためのものなのだろうか。オランがうっかり水に落ちた時の命綱的なものだろうか。

この時に撮れた最も説明的な1枚。これぞ異種混合展示! と言えなくもないか。でもコツメって本当に目立たないな。

基本的にオランウータンたちは樹上でウェ〜イな状態である。彼らにとってコツメは、いてもいなくても関係ないようだ。

考えてみるとこの段階で悟った気がする。カワウソ異種混合展示は、極めて写真になりにくい。ものすごく「見たい!」と思うのだけど、撮るのは大変で撮れてもイマイチだ。
やはり『動物の図鑑』のあの楽しげな図版は、絵に描いた餅なのかもしれない。
飼育管理は単種展示に比べて気を使うだろうし、当事者である動物たちも「刺激になる」以上にストレスになったりするのかもしれないし、苦労の割には大きな効果は見込めないとも思える。異種混合展示、それは単なるロマン、所詮は見果てぬ夢、なのだろうか。
【2026.06.17 加筆修正と見出し追加】

佐藤淳一【カワウソ写真家】 [著者情報] 実はカワウソに限らない写真家。平成19年度宮城県芸術選奨受賞。主な著書に『恋する水門』(2007年/BNN新社)、『ドボク・サミット』(共著/2009年/武蔵野美術大学出版局)、『カワウソ』(2010年/東京書籍)他がある。展覧会は『ニーダーフィノウの鉄の骨』(2006年/Gallery Maki)、『アートみやぎ2007』(2007年/宮城県美術館)、『カワウソおもろいねん!』(2013年/海遊館)、『大都会の野生カワウソ』(2018年/埼玉こども動物自然公園)他、1995年より多数開催。雑誌『ワンダーJAPAN』、『土木技術』、スポーツ紙『東京スポーツ』で写真と文を連載。『タモリ倶楽部』(2008年/テレビ朝日)、『出没!アド街ック天国』(2012年/テレビ東京)等に出演。「生きることは、見ること」が信条。芸術と研究を足してサブカルで割った「リサーチ・エンタテインメントとしての写真」を専門とし、土木構造物と野生動物という、かけ離れたふたつの領域で仕事してきました。
