Vintage article series: Humdrum 19971020 – 19991231

●窓際の仕事机の上、天井とのわずかなスペースに二枚の古いイコンの模写が掛っている。仕事に煮詰まるとこれを見上げてため息をつくことになる。別にわたしはキリスト教徒であるというわけではないので、信仰の対象としてこれを掛けているのではない。視覚表現のひとつの極限スタイルとしてのイコンにとても惹かれるものがある、という単純な理由で身近に置いているのだ。詳しく勉強したわけではないのでいい加減なことを言ってる、と指摘されるかもしれないが、とにかくオルソドクス(いわゆるギリシャ正教)におけるイコンという様式は大変に微妙なバランスで成立した。カトリックでは平気でやることになる神や聖人の姿の三次元表現を拒否し、さらにお隣イスラムの偶像否定主義から激しいプレッシャーをかけられ、二次元のしかもあえて写実から遠ざかるというぎりぎりのスタイルに逃げ込んだ(ように思えてならない)結果として生み出された、異様なまでの力強い存在を感じさせるスタイル。何だかとてもいとおしい●それにしても何とわれわれは遠いところまで来てしまったのだろう。その昔、修道院の奥で修道士たちが一筆ごとに祈りの言葉を唱えながら描き上げた視覚表現物と、デジタルカメラで撮影してその直後にモニタ上に写しだされる視覚表現物と。そんなもの同士を比較する方がどうかしているのだが、その間に横たわる長い長い時間を想うと気が遠くなりそうだ。それで問題は、デジタルカメラを持ってしまったわれわれに一体何ができるのか、というところにある。よーく考えてみたい。

佐藤淳一【カワウソ写真家】 [著者情報] 実はカワウソに限らない写真家。平成19年度宮城県芸術選奨受賞。主な著書に『恋する水門』(2007年/BNN新社)、『ドボク・サミット』(共著/2009年/武蔵野美術大学出版局)、『カワウソ』(2010年/東京書籍)他がある。展覧会は『ニーダーフィノウの鉄の骨』(2006年/Gallery Maki)、『アートみやぎ2007』(2007年/宮城県美術館)、『カワウソおもろいねん!』(2013年/海遊館)、『大都会の野生カワウソ』(2018年/埼玉こども動物自然公園)他、1995年より多数開催。雑誌『ワンダーJAPAN』、『土木技術』、スポーツ紙『東京スポーツ』で写真と文を連載。『タモリ倶楽部』(2008年/テレビ朝日)、『出没!アド街ック天国』(2012年/テレビ東京)等に出演。「生きることは、見ること」が信条。芸術と研究を足してサブカルで割った「リサーチ・エンタテインメントとしての写真」を専門とし、土木構造物と野生動物という、かけ離れたふたつの領域で仕事してきました。
