
那珂湊漁港水門
サブマージブルラジアルゲート、というタイプの水門である。別名水没型ラジアルゲート、または越流型、または潜水式とも言うらしい。ぱっと見、水門には見えないと思うが、よーく見てほしい。こんな↓カニの足みたいのがあるでしょ。

このカニ足の部分が動いて、水の上に見えている低い壁のような部分を上下させるのだ。今の写真の状態が「閉」であり、これがブクブクと水中に沈めば「開」になるわけだ。ふーん。
主要な動作はほとんど水中で行われ、開閉機器室も地上にあって単なる箱形の普通の建物にしか見えない。何とも無駄がない、というか気負ってない、というか。とにかくすっきりしすぎていて心もすーすーする。ヒツジの皮をかぶったオオカミ、というたとえがあるが、この場合はヒツジが透明で、その皮をかぶったらオオカミごと消えてしまった、みたいなやるせない感じである。
近年、土木業界では景観設計への配慮が要求されるようになっておるそうで、背景を遮らないようなゲート形式を選んだり、堰柱は低く、開閉機器室を下に設置したりなどして、従来型のいかにも水門水門したスタイリングから脱却するのが流行っているのだそうだ。ドボク・エンタテインメント業界のわたしとしては実に困った流行であると思っているが、わたしのために水門があるわけじゃないので文句も言えない。
このまま行くと、今後設置される、あるいはリプレイスされる水門の多くは、「地図に残らない水門」になるのではないか。つまり水門もステルス化するということだ。橋やダムといっしょで水門も爆撃の対象だから、ステルス化するのは理にかなっていると言えばかなっているけどそういう理由じゃないだろうって。
それで、このステルスな那珂湊漁港水門はちょっと特殊な水門で、那珂川の河口部分の隣にある漁港の、那珂川側への出入り口に設けられている。那珂川が洪水の時に、漁港に土砂が流入するのを阻止するのが主目的だそうだ。水位はあまり問題にしていないようなので、こういう低目のゲートでも事足りるのだろうか。
この水門の観賞ポイントは船舶用信号機である。ゲートの入り口に2灯式のが2本、立っている。実際、これがないとかなり寂しい。というかこれ以外に着目するところがないのではないか。鎖が張ってあったりするが、あいにく鎖方面に萌える性向はないし。
さらにこの水門の上流にはこんな↓予告信号機まで設置されている。これはかわいい。

昨日の海門橋のたもとに、まるで見当違いの方向を向いた信号機があって、なんだこりゃと思ったのがそれであった。これを見つけてようやく見に来たかいがあったと思ったよ。

佐藤淳一【カワウソ写真家】 [著者情報] 実はカワウソに限らない写真家。平成19年度宮城県芸術選奨受賞。主な著書に『恋する水門』(2007年/BNN新社)、『ドボク・サミット』(共著/2009年/武蔵野美術大学出版局)、『カワウソ』(2010年/東京書籍)他がある。展覧会は『ニーダーフィノウの鉄の骨』(2006年/Gallery Maki)、『アートみやぎ2007』(2007年/宮城県美術館)、『カワウソおもろいねん!』(2013年/海遊館)、『大都会の野生カワウソ』(2018年/埼玉こども動物自然公園)他、1995年より多数開催。雑誌『ワンダーJAPAN』、『土木技術』、スポーツ紙『東京スポーツ』で写真と文を連載。『タモリ倶楽部』(2008年/テレビ朝日)、『出没!アド街ック天国』(2012年/テレビ東京)等に出演。「生きることは、見ること」が信条。芸術と研究を足してサブカルで割った「リサーチ・エンタテインメントとしての写真」を専門とし、土木構造物と野生動物という、かけ離れたふたつの領域で仕事してきました。
