
愛媛県総合科学博物館のニホンカワウソの剥製、EMZ-006のアップ。いい面構えです!
最近、なぜか剥製が気になって仕方がありません。これまでも剥製は資料としてちょこちょこ撮ったりしてたのですが、今まで剥製メインで記事書いた例はそう多くなく、さすがに下の2本ぐらいだろうと。


なぜに今、3本目を書こうと思ったのかと言うと、数日前たまたま「いなくなっちゃったカワウソ」の加筆修正をしてたんですよ。その記事中に、ニホンカワウソの剥製もっといっぱい見るには、愛媛県総合科学博物館に行かなくちゃ、みたいなこと書いてるのを見つけて。
ん? 愛媛科博ってとっくの昔、2014年に行ってるじゃないか。でもそういえば写真は出してなかったような。何で出してなかったんだっけ? ニホンカワウソの話題を投下するのはタイミングを考えないと危険だ、とかそういう謎理由だったっけ(←これちょっと闇な話ね)。いやいやそんなんじゃなくて、単にコンデジ撮影で画質が悪かったからだった!ことまで思い出されて納得。
そんなことなら、今やAIノイズリダクションかけたら何とか見られる絵になっちゃう時代なので、急遽データを掘り返して現像し直してみました。思いっきり遅れ提出になっちゃってるけど見てみてね。
あ、言わずもがなですが、何しろ12年も前の展示の様子なので、今行っても(これ読んでわざわざ剥製見に行く人が現れるとは思えませんが)同じ剥製ちゃんたちが見れるかどうか、全く保証はありません。そのあたりお含み置きください。

というわけで2014年の11月の撮影なんですが、確かこの時も、ニホンカワウソの特別展示?をやってまして、これは常設展示ではない個体です。EPSM-MA438という名前です。ラベルには昭和30年ごろ愛媛県保内町で採集とありました。この角度で見るといい感じでしょ? ちょっと犬っぽいけど。

でもね、真横から見るとこうなっちゃうんですよ。イタチ体型なのはよいのですが、この肉付けだと巨大なイイズナ、というフォルムです。
昔のニホンカワウソの剥製って、もう形がむちゃくちゃなんですが、おそらく当時の剥製師の皆さんがカワウソの顔形や体型をよく知らなかったからなのでしょう。野生で見かけることは簡単ではなかったし、動物園や水族館に行ったって今のようにあちこちにカワウソはいません。写真や動画も今ほど流通してないし、絵画に至っては、カワウソなど妖怪変化の類として描写されていた時代です。
カワウソ情報のない中で、何とか形にしてくれた当時の剥製師たちの仕事っぷりに敬意を表しつつ、謎な造形を味わい、楽しませてもらうことにしましょう。

左がEMZ-001(メス、1954年 愛媛県大川村)、右がEMZ-006(メス、1975年 愛媛県宇和島市)。この2体は毛皮の退色がかなり進行しています。その後ろに比較的毛皮の色が残っているEMZ-011(オス、1964年 愛媛県長浜町)の背中が見えています。

EMZ-001のアップ。顔の造形に力が入ってますね。精悍な表情と言ってもいいかもしれません。台を工夫して動きを出していますが、盆栽や盆石みたいな和風テイストになってしまうのは仕方ないです。何しろ70年前の剥製ですから。

こちらはEMZ-006ちゃん。スタンディングポーズとして作られた意欲作。カワウソは二足立ちできるということは知られていたわけです。あ、これは1975年以降の作でした。当時は道後動物園にニホンカワウソが飼育されていたので、1954年よりはずっとカワウソの情報があったはず。

EMZ-006を側面から。ちょっとおデブなのが気になりますが、しっかり立たせています。尻尾の処理も見事ですね。台座から飛び出させて立体感を強調してたりと、工夫も見られます。前脚の収まりどころがない感じが弱点でしょうか。魚でも持たせてみたいなどと勝手なことを考える。

後ろのEMZ-011くん。これはもう、なんと言いますが造形の放棄とでも申しましょうか。1964年なんだからもうちょっと考えてよ、とツッコミ入れたくなる第一印象です。
でもね、これずっと見てると心が穏やかになるんですよ。キャラ立ち方向へ進化しているわけです。こんなのもありなんだ〜というおおらかな気持ちになります。
当時、見たこともない動物の毛皮だけがあって、それを剥製にしてくれ、と言われたと思ってください。この剥製師は安易に犬に似せてしまう方策を取らなかった。それよりは謎を残し解釈の余地を残し、カワウソというよくわからない動物の存在感に独自の形を与えた。当時の剥製師の、プロフェッショナルなギリギリの判断が偲ばれます。
この3体は愛媛県の絶滅危惧種の特別展示みたいな趣旨の展示でした。常設ではなかったようです。

そしてこちらが常設展示の1体目。EMZ-012(メス、1964年 愛媛県宇和海村)造形的にはふっくら系ですが、顔が扁平していて愛嬌があります。この吻のふっくら感はいいですね。これで締めるところを締めるとよりカワウソに近づくので、惜しい!といえます。
学術資料に愛嬌もキャラ立ちもないもんだろうとは思いますが、ここは価値の多重化のひとつの試みとして、笑って許してください。

キャラ立ちといえばこれ。EMZ-028(メス、1965年 愛媛県伊方町)。ふっくらもふもふ。脱色でほとんど天使キャラ化してます。表情は間違いなくいやし系。カワウソにしておくのが惜しいほど、独自の生き物として剥製的独自進化を遂げています。
EMZ-028、おそらく今まで残念な剥製とされてきたのでしょうけど、もうそんなことはありません。ある種の必然で出来上がった奇跡の造形は、現代の価値観でキャラ的に鑑賞可能だと思います。

最後にEMZ-014(オス、1964年 愛媛県宇和海村)。比較的安心して見ていられる造形かな。というかわたをパンパンに詰めず(アザラシしか見たことがない剥製師がラッコの剥製を作るとパンパンになっちゃって…という例をしばしば見ます)、ちゃんと毛皮に余裕を持たせてあるところがカワウソ的に正解でしょうか。上から見たショットにします。絶妙な毛皮のたるませ方をご覧ください。

2014年当時、愛媛県総合科学博物館は35件のニホンカワウソ標本を収蔵していました(今はもっと増えているはずです)。内訳として剥製29、骨格1、頭骨1、毛皮2、死体1、頭骨等1とあります。こちらが骨格のEMZ-029(オス、1954年 愛媛県長浜町)。

毛皮のEMZ-031(性別不明、1960年ごろ 愛媛県三瓶町)。カワウソの開きですなあ。

これが常設の剥製たち。ニホンカワウソぞろぞろ。いやあ、あるところにはあるもんだなあ、というのが素朴な感想でした。4階のこのゾーンは今もあまり変わっていないものと思われます(未確認ですが)。
以上、昨年(2025年)に43体の標本を大量展示した、愛媛県総合科学博物館の「史上最大のニホンカワウソ展」を見ていないわたしがお届けする、実に説得力のない記事でした。つい最近までニホンカワウソ問題を無意識のうちに避けていたような気がする。もっとムラのないカワウソ人生を送らないとダメだな。

佐藤淳一【カワウソ写真家】 [著者情報] 実はカワウソに限らない写真家。平成19年度宮城県芸術選奨受賞。主な著書に『恋する水門』(2007年/BNN新社)、『ドボク・サミット』(共著/2009年/武蔵野美術大学出版局)、『カワウソ』(2010年/東京書籍)他がある。展覧会は『ニーダーフィノウの鉄の骨』(2006年/Gallery Maki)、『アートみやぎ2007』(2007年/宮城県美術館)、『カワウソおもろいねん!』(2013年/海遊館)、『大都会の野生カワウソ』(2018年/埼玉こども動物自然公園)他、1995年より多数開催。雑誌『ワンダーJAPAN』、『土木技術』、スポーツ紙『東京スポーツ』で写真と文を連載。『タモリ倶楽部』(2008年/テレビ朝日)、『出没!アド街ック天国』(2012年/テレビ東京)等に出演。「生きることは、見ること」が信条。芸術と研究を足してサブカルで割った「リサーチ・エンタテインメントとしての写真」を専門とし、土木構造物と野生動物という、かけ離れたふたつの領域で仕事してきました。
