ベルギー・ロンキエールの斜面型運河エレベータ
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大学生の頃、『フィツカラルド』という映画のポスターを見た。それは映画館ではなくて、学内の何かの上映会のものだったような記憶がある。見に行きゃよかったのだが行きそびれて、それっきり。でも船が山を登るシーンが使われたそのポスターだけはずっと気になっていた。今ならもちろん、YouTubeですぐに見つかる。
1982年のドイツ映画だ。もっと古い映画だと思い込んでいたのだが、それはわたしが見たポスターが手作りのモノクロコピーかなんかだったからだろう。上の予告編で2分15秒あたりからその船が山に登るシーンになるのだが、これって何と本物の船を、アマゾンで実際に山に上げて撮ったものだという。当時でも普通に考えれば特撮、今なら間違いなくCG、という選択になるだろう。ストーリーもとんでもないが、撮影はそれ以上にとんでもない映画なのだった。こりゃあ当時(20歳ぐらいで)見てたら人生変わったかもしれんな。手作りポスターだけで20年以上記憶に焼き付いていたぐらいだから。
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船が山に登るというのは、昔から途方もないこと、とんでもないことの例えとして使われていると思っていた。しかし実際にヨーロッパの運河施設を回ってみると、それが現実のもの(運河エレベータ)として日常的に稼働していることに驚かされる。感覚的にとんでもないことであっても、コストや環境負荷を考えての内陸水運がいまだに発展中のヨーロッパでは、船が山を登るような運河エレベータはリアルな選択なのだ。
考えてみれば現代の日本だって、海底トンネルや海を渡る橋が日常的な感覚で受け入れられるようになってしまったのだから、とりわけびっくりするようなことでもないのかもしれない。
それでようやく上の写真の話になる。ベルギーはロンキエール(Ronquieresの発音はこれでいいのか?)にある運河エレベータだが、ケーブルカーのように斜面を登るタイプなので、日本ではインクラインという呼び名の方が通りがよいのではないか。京都の蹴上の琵琶湖疎水に、この何分の一かの小さい規模のものが近代化遺産として残されている(京都のは水槽でなくて台車に船を乗せる方式)。ロンキエールのは船を乗せた水槽ごと約1.5キロの斜面を上り下りするもので、人でも入れて撮らないと完全にスケール感が崩壊するほど、巨大な施設である。
こんなもの、話に聞いただけで想像できますか? 実際に行って目の前で動いているのを眺めても、そばで見てるとあまりの大きさに実感が湧かなかった。少し離れた展望台から引いて見て、やっと何がどうなっているのか冷静に眺めることができるぐらい。
こういうものを一体どう撮ったらいいのか。全く修業が足らない。