新シリーズ、始めました。
「Ether」
イーサーネットのイーサーではありません。エーテルと読んでください。
イーサーもエーテルも、もともと同じ単語ですが、日本に入ってきた時期によって読み方が違い、示す概念も違っています。エーテルは化学物質にその名がありますが、かつて光の波(電磁波)を伝えると考えられていた媒質の名でもあります。波動が伝わるには必ず振動する物質が必要ですが、光や電波にはなぜかそれが必要ないのです。つまり光や電波は真空中でも伝わるのですね。今では常識とされているこの現象も、かつての物理学者にとっては納得のいくものではなく、彼らは光や電波はわれわれに検出できない未知なる何かが媒質となっているに違いないと考えました。それにエーテルという名を与えたのです。宇宙はエーテルで満たされている、と。しかし、エーテルの存在は19世紀のおわりにマイケルソンとモーリーの実験によって否定されることになります。光は媒質の中を進む単なる波でないことが判明し、光の速度は光源や観測者の速度によらず一定である、というにわかには信じられない原理が導入され、ご存知アインシュタインの相対論のパラダイムが始まります。そしてその上に、われわれの住み処である現代文明が成り立っているわけです。
エーテルの終焉は、絶対空間、絶対時間の終焉でもありました。世界(スケール的には宇宙、と書いた方がいいかな)のどこかに絶対に揺らがない柱でも軸でもいい、何かが立っていて、そこには世界のどこから見ても長さが変化することのない目盛りが振ってある。そして世界のどこからでも所要時間ゼロで読み取れる正確な時計が時を刻んでいる、という古典的な安心感のある世界像は、エーテルの否定から始まるパラダイムチェンジにより完全に崩壊したのでした。
エーテルというのは、なんとも面白い位置づけにある概念だと思います。
![Ether[エーテル] 6 junichisato in the winter wetland](https://kohan-studio.com/otterhaus/wp-content/uploads/2026/04/profile_real_240px.webp)
佐藤淳一【カワウソ写真家】 [著者情報] 実はカワウソに限らない写真家。平成19年度宮城県芸術選奨受賞。主な著書に『恋する水門』(2007年/BNN新社)、『ドボク・サミット』(共著/2009年/武蔵野美術大学出版局)、『カワウソ』(2010年/東京書籍)他がある。展覧会は『ニーダーフィノウの鉄の骨』(2006年/Gallery Maki)、『アートみやぎ2007』(2007年/宮城県美術館)、『カワウソおもろいねん!』(2013年/海遊館)、『大都会の野生カワウソ』(2018年/埼玉こども動物自然公園)他、1995年より多数開催。雑誌『ワンダーJAPAN』、『土木技術』、スポーツ紙『東京スポーツ』で写真と文を連載。『タモリ倶楽部』(2008年/テレビ朝日)、『出没!アド街ック天国』(2012年/テレビ東京)等に出演。「生きることは、見ること」が信条。芸術と研究を足してサブカルで割った「リサーチ・エンタテインメントとしての写真」を専門とし、土木構造物と野生動物という、かけ離れたふたつの領域で仕事してきました。
