晩年の澁澤がどこに向かおうとしていたのかがわかる(かもしれない)一冊。古典によくあるあやかしの物語を現代語でやってるわけなんだけど、「テクニカル・ターム」とか「デジャ・ヴュ」とか、唐突に日本語化した西洋の単語が飛び出すところが不思議なひっかかりになっていて、おもしろい。水戸黄門でうっかり八兵衛が「ご隠居!こっちの旅籠の方がサービスよさそうですぜ」と言ったとか言わなかったとかいうジョークがあるけど、ちょうどそんな感じなのね。ちらし寿司の上にオリーブの実が一つ乗ってる、みたいな微妙な違和感。古典な雰囲気の幻想譚だから結末も何だかはっきりしないし、因果関係も論理性も超越したレベルでストーリーが進行して行き、あれ?と思うまもなく放り出されてしまう。これは「はぐらかし」の気持ち良さとでも言うべきか。
『ねむり姫』
