Vintage article series: Humdrum 19971020 – 19991231
●やっぱり来た来た放電状態。自分の展覧会が終わってこの10日というもの、考えが発散してしまって。波崎の海岸に行ったり隅田川岸をひたすら歩いたり他の人の写真展のオープニングに行ったり最終日に行ったりそんな(非生産的な)ことしてたら、ますます放電してしまって(過放電状態)メンタリティがかなり危機的状態にあった。今も完全にそうだけど。そんな中で、ひさびさのお花見計画が立ち上がったりしてるのがせめてもの救い。わたしが展覧会中の酒宴で何気なく「印旛水門の隣の印旛排水機場の脇に桜の木があったような気がするんだけど」と言ったらありがたいことに大学の後輩たちがちゃんと企画を立ててくれたのだ(日程変えさせてごめんね^^;)。ああ、実はわたしはお花見なんてこの7、8年したことがないのだ!!!だから何だかとても楽しみになってしまった。あの激しくも武骨で美しい大水門(ちなみに#8075)と隣の流麗な大ポンプ場に挟まれた桜の木々の下で酒宴を張れるなんて、なんてなんて贅沢なイベントなのだろう。たとえ当日雨が降ってもわたしは行くぞ。それにしても桜の花の散る下で酒を酌み交わす、なんていうシチュエーションはかなり不思議、であるように思われる。その絶妙なロマンチシズムは筆舌に尽くしがたい。日本人の感覚の真髄みたいなものかもなあ。普段は曖昧でファッショでミーハーな現代日本文化を呪っているわたしも、このシチュエーションだけは全面的に(宴会の醜態は除いて)賛成してしまう。
で、今日の本題ね。とにかくちゃんと放電すれば次にはフル充電ができるはずなのですが、何か非常にもやもやとした疑問が頭の中に渦巻いていましてね。写真、というものに関して。それが邪魔になって身動きがとれないんです。たぶん現時点における、真に写真的なるもの、はデジタル画像の中にあることは間違いはない。あ、結論から言っちゃった。では従来の銀塩写真は、というと、たとえば美術館のような制度の中に取り込まれるものは、絵画という文脈を借用しているわけだ。画廊(ギャラリー)とそれを取り巻くコレクターだのなんだのといういうシステムがあって、そこで育てあげられる作家、という存在。すごーくリーズナブルなやり方だと思うんだけど、だけど何か割り切れない。それに乗っかるチャンスもなかったわけではないのだけれど、わたしは乗らなかった。誰が言ったのだったか、「自由と名声と富。この三つをすべて享受することはできない。最大で二つだ」というような話がありますね。それが頭から離れなくて。自由というのは富や名声と等価なのであって、これを売り渡すことによって作家はその名を売るわけでしょ。でもやっぱりわたしは御免だ。インディペンデントでありたい。わたしがもしWWWという、自由度の高い場に関与していなかったらこういう考えには至らなかったと思う。従来のシステムにひたすら潜入しようと努めたであろう。まだ海のものとも山のものとも知れないインターネットを自分のメインのフィールドにしようという決意によって、わたしは掛け金をつり上げてしまったようなわけで、まるで先物取り引きですねこりゃ。この決意には、小林のりおさんの影響が大きい。小林さんはメジャー作家でありながらWWW上での写真表現に最も積極的な方で、わたしはもう完全に敬服しております。すでに様々な発表の回路をお持ちなのにもかかわらず、この暗闇に語りかけるごときWWW上の表現を重視されている。なかなかできることではない。というより実は適性の問題だったりするのでしょうけど。
とにかくこの新しい場、を何とかしたい。しなければならない。しかしこの手応えの無さ、これは如何ともしがたい。無限の暗闇に向かってわたしは叫んでいる。こんなことを書いても写真を発表しても、リアクションの実感は小さなギャラリーで行う展示よりはるかに小さい(あ、悲観的になってきた)。砂漠に水を撒くような、闇夜に豆を撒くような、大海原に射精するような、宇宙の果てに異星人宛メッセージを送信するような、ppmという単位のような、この実感の無さ、薄さよ。しかしわたしはこの無力さに立ち向かう!

佐藤淳一【カワウソ写真家】 [著者情報] 実はカワウソに限らない写真家。平成19年度宮城県芸術選奨受賞。主な著書に『恋する水門』(2007年/BNN新社)、『ドボク・サミット』(共著/2009年/武蔵野美術大学出版局)、『カワウソ』(2010年/東京書籍)他がある。展覧会は『ニーダーフィノウの鉄の骨』(2006年/Gallery Maki)、『アートみやぎ2007』(2007年/宮城県美術館)、『カワウソおもろいねん!』(2013年/海遊館)、『大都会の野生カワウソ』(2018年/埼玉こども動物自然公園)他、1995年より多数開催。雑誌『ワンダーJAPAN』、『土木技術』、スポーツ紙『東京スポーツ』で写真と文を連載。『タモリ倶楽部』(2008年/テレビ朝日)、『出没!アド街ック天国』(2012年/テレビ東京)等に出演。「生きることは、見ること」が信条。芸術と研究を足してサブカルで割った「リサーチ・エンタテインメントとしての写真」を専門とし、土木構造物と野生動物という、かけ離れたふたつの領域で仕事してきました。
