
仿僧川水門
なんでこんなに面白い構造物が人に知られず立っているのか。もちろん作った人や近所の人は知ってるのだろうけど、全国的に、いや全世界的に知られていいほど、とんでもない存在感だと思うのに。休日には屋台とか立ち並ぶぐらい有名な観光ポイントであってもおかしくないのに。みんな無関心なのがとっても不思議。
さて、90年代の水門デザインって、メルヘン化したりご当地化したり、いわゆる「やっちゃった系」が多い中で、時としてかっこいいなあと思えるものがある。この仿僧川水門(97年竣工)は開閉機器室の窓の処理が朝霞水門と似たような感じで、ぱっと見、戦隊ものの秘密基地然としており、合目的的に好ましいスタイリングだ(水門→洪水や津波を止めて市民を救う→非常時のヒーロー→戦隊もの)。
基本テイストは面取を多用して曲面を作らない、エッジを効かせる系。しかしそれが七つも並んじゃうと単純反復の法則によりソウルフルで俗っぽい方に流れてしまう。裏の階段室(か?)がちょっと飛び出ているのが、顔が白塗りのせいもあってか斜めから見るとバカ殿っぽい印象。いやいやそれじゃあんまりなので、ウルトラセブンのアイスラッガーみたいとしておこう。
静岡の耐震系の水門には必須アイテムであるカーテンウォール(ゲート手前の補強用の板)が付いているが、これも上屋に合わせて白塗りなのがおしゃれというかぜいたく。ここは汚れてしまうパーツだから、ふつうは単にコンクリ打ちっ放しなのだ。ほら、本物のおしゃれな人は見えない下着にお金をかける、などと言うではないか。カーテンウォール、思いっきり見えてるけどね。
したがってトータルの印象はと言うと、白塗りのウルトラセブンが七人並んで、せえので長い棒状の白いオブジェクトを持ち抱えているような感じである。何というか過剰に頼もしいというか。ウルトラセブンが七人もいるなんてゴージャスにもほどがあるだろうというか。予算を考えろよというか。まあよくわかんないけど、とにかく個性的ではあるが、どちらかというとかっこいい部類に入る、ということであって、こういうタイプは何かの拍子に好きになっちゃうと抜け出せなくなるので、気をつけたい(もう好きになってしまったかも)。
このところの調査研究により、静岡県は東海地震対策でかなり水門にお金をかけていることを知った。『恋する水門』では国交省の水門は立派だが県管理の水門はボロいとか書いたが、静岡県には全く当てはまらないのであった。ウソ書いて申し訳ない。>静岡県

佐藤淳一【カワウソ写真家】 [著者情報] 実はカワウソに限らない写真家。平成19年度宮城県芸術選奨受賞。主な著書に『恋する水門』(2007年/BNN新社)、『ドボク・サミット』(共著/2009年/武蔵野美術大学出版局)、『カワウソ』(2010年/東京書籍)他がある。展覧会は『ニーダーフィノウの鉄の骨』(2006年/Gallery Maki)、『アートみやぎ2007』(2007年/宮城県美術館)、『カワウソおもろいねん!』(2013年/海遊館)、『大都会の野生カワウソ』(2018年/埼玉こども動物自然公園)他、1995年より多数開催。雑誌『ワンダーJAPAN』、『土木技術』、スポーツ紙『東京スポーツ』で写真と文を連載。『タモリ倶楽部』(2008年/テレビ朝日)、『出没!アド街ック天国』(2012年/テレビ東京)等に出演。「生きることは、見ること」が信条。芸術と研究を足してサブカルで割った「リサーチ・エンタテインメントとしての写真」を専門とし、土木構造物と野生動物という、かけ離れたふたつの領域で仕事してきました。
