Floodgates | Primer 『 水門入門 』 | ||||||||||||||||
0. 水門入門だ! どこかにあると思ってたんだけどね、こんなページ。でもなかった。世界中探してもなかった(1998年現在)。わたしとしては水門の解説は他の誰かのページに任せておいて、黙ってオレの水門写真を見ろ、というクールな趣旨で行く予定だったのだ●誰かがどこかで書いてた。「どうしてインターネットってのは超専門家向けページと自己紹介ページしかないのか」。なるほど、サイバー世界ってのはそういうものなのかもしれない●本当に欲しいものは自らが作るまで存在しない、というと聞こえはいいが、結局のところ「作ればあるもんね」という小学生の言い訳レベルの理屈で成り立ってるのがサイバー世界だ●というわけで水門入門、仕方ないので自分でやります。水門鑑賞や行楽のお供、夏休みの自由研究などにどうぞご活用ください。でも言っときますが作者は素人です。土木のことは何もわかっていません。はい、そこの専門家の方!もし間違い見つけたらモニタの前で冷たく笑ってないで、すぐにメールで作者に指摘してね。 | ||||||||||||||||
1. 水門って何だ? 水門って見たことない、という方は水門写真展示室の方で今一度、十分にイメージトレーニングを積んで来てください。ではこれから、水門って一体、何やってんだ?というみなさんの素朴な疑問を解明していきたいと思います。まず水門といっても一般に言われている水門と、河川工学で言われる狭義の水門というのはちと違うのだ。一般に水門と呼ばれている、要は川につけられたでっかいドアのことを、専門的にはゲート(門扉)と総称している。しかし専門家の扱いとしてはゲートはあくまでも単なるパーツだ(このそっけない還元的思考こそが専門家的)。ダムの吐き出し口や排水機場(ポンプ場)の入り口なんかにも外からは見えないがゲートは付いている。そのパーツがたまたま独立してつっ立って、素人にもわかるように自己主張してる状態が、われわれが水門と呼んでいるものの正体だ。 | ||||||||||||||||
2. ゲートってどんな形があるの? パーツとしてのゲートには実にさまざまな構造があるが、まず今回は代表的なものだけを見ていこう。地方によって差はあるけど、われわれが見かけるのは大体つぎの三種類なのでしっかり押さえておきたい。簡単だ。すぐに覚えられる。まずギロチンのように板が単に上下するのがスルースゲートだ。スライドゲートとも呼ばれる。板は溝にはまっていて変な方向へは動かないようになっている。さらにスルースゲートが大規模になって、上下の動きをローラーを使ってなめらかに支えるようにしたのがローラーゲートだ。要するに戸車を付けたようなものなんだけど、大きな水圧のかかった状態で板(ゲートリーフと呼ぶ)を上下に動かすのには、もうローラーでも使わないと無理なのだ。さて上の二種類と全く違った外観を持つのがマイターゲートだが、これは日本では現在、あまり見られない。しかしヨーロッパの運河の水門はだいたいがこのタイプ。マイターゲートは観音開き構造になってるので、水圧がかかると開閉がむずかしい。しかし上に構造物を作らなくてもゲートができるので、背の高い船でも平気で通過することができるという利点があるのだ。もっとも造作は目立たないので、写真写りはあまりよろしくない。
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3. 星の数ほどあるのが樋管 さていよいよ水門の用途別いろいろを見ていこう。おそらく世の中でいちばん多いのがこれ。樋管(ひかん)。規模の大きいものを樋門(ひもん)ともいうがはっきりした区別はないらしい。樋管の役目は堤防を貫いて水を出し入れすることにある。ただし後で見る狭義の水門との違いは、堤防を切り崩さないで、堤防の横腹にパイプを通したものであるという点だ。用途はそれこそ千差万別だが、農業用水の引き込みや下水の放流というのを多く見かける。どこの話とは言わないが、下水処理場の排水樋管のすぐ下流にある浄水場の取水樋管、という構図は人間存在の奥深さを感じさせずにはおれないように思う。
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4. 本当に水門と呼べるのは水門だけ? 狭義の水門というのは、何らかの原因で堤防が途切れた部分に堤防の役目をするドアをつけちゃったものである。堤防が途切れるシチュエーションとしては、支川が大きな本川に合流するという場合が多いが、運河や放水路を作るために既存の堤防を切り崩すようなこともあり得る。いずれも本川が洪水でタプンタプンになったときに支川へ水が逆流するのを防ぐ役目をする。このタイプの水門こそがこのサイトのタイトルにもなってる「フラッドゲート」だ。また河口に作られるのは防潮水門といって、この場合は高潮を防止するためのものである。いずれの場合も水門を閉めてしまうと支川側でせきとめられた水がたまってしまうので、大型のポンプで無理やり排水する。このためのパワフル(かつお金のかかる)な施設が排水機場である。水門が黄門様なら、排水機場と排水樋管は助さん格さんということである。
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5. 楽しい閘門! 閘門(こうもん/ロックゲート)は、水門の特殊なものだ。普通の水門は何らかの異常時に作動するのだが、閘門は平常時でもごそごそ動く。だから目立つ。その動きはわれわれ素人が眺めていても何やら楽しげである。だから水門のくせに観光名所とかになってしまう。働きもわかりやすいし、パナマ運河とおんなじ原理ですなんて言われたりすればみんなが興味を持ってしまう。まあ要するに水門一族の中でも果報者というわけ。この閘門が設けられるのは、水位の差があるところを船が往来する場合である。本川と支川に水位の差がある場合で、そこを船が行き来することを想像していただきたい。ひとつの水門を開け閉めしていたのでは、その度にものすごい水流が起きて船が通れないどこか、低いほうが洪水になったり高いほうが干上がってしまったりして迷惑至極であろう。そこで水門を二つ作って、ひとつずつ開け閉めするのである。高級旅館で仲居さんが廊下からいきなり部屋に入って来ないのと同じフォーメーションである。「次の間」に当たるスペースを閘室と呼ぶ。下の写真で動きを研究されたし。
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6. 何かと目の敵の可動堰 可動堰(かどうぜき)は、有名どころでは長良川河口堰や、最近では吉野川河口堰計画などで環境問題として話題となることが多い。可動堰は厳密に言うと水門の仲間ではない。堰というのはそもそも流れを遮って部分的に水位を上げてそこから取水したり(頭首工と呼ばれる)、河口から海水が遡上してくるのを防ぐためのもので、動かないやつは固定堰と呼ばれる。固定堰は要するにビーバーの作るダムとおんなじで人間の場合は川中にコンクリ打ってしまえばそれでOKなんだけど、季節による水位の変動に対応することができない。さらに洪水の時は流木が引っ掛かったりして邪魔モノにもなる。そこで必要な時にだけ堰を作れるようにしたのが可動堰である。構造としてはローラーゲート型をよく目にする。これらは水門とはかなり目的がちがうものの、実際の姿は扉体の低い水門のように見える。しかし中にはかなり凝った構造のゲート(水中でゴム風船が膨らんだりとか)もあってバリエーションは水門より多く、設計者の腕の見せ所であるらしい。可動堰は川の水を実にわかりやすい姿で遮ってしまうことから、何かと風当たりが強い。「アウトドアという名の自然」を愛する方面から目の敵にされたりする存在である。
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7. 現実のネーミングはいい加減 というわけで役割の違う4つのタイプを押さえたわけだが、現実には水門と称しながらも樋管であったり、閘門と称しながらも単なる水門であったりすることがある。おそらく工事発注側のエラい人が「水門だ!」と命名するとその瞬間からそれは樋管でも水門になってしまったりするのだろう。水門通をめざす人は、くれぐれも名前に惑わされぬよう、しっかりと構造を見極める必要がある。発注側のエラい人もいいかげん水門と樋管の違いをちゃんと認識した方がいいですね。このサイトに収録されているものでは、たとえば水門写真展示室6の法師戸水門(#0099)や大木水門(#0100)が、自称水門ながら構造的には樋管である。どうでもいいような話だが気になるので念のため。 | ||||||||||||||||
8. 水門は誰のもの? みんなのものである。ほとんどの水門は税金で作られているから。しかしいくらみんなのものと言っても「関東○○連合参上 夜露死苦」とかスプレーでゲストブックしちゃったりするのはやはりマズいと思う(結構多いんですよ)。そんでもって水門を開けたり閉めたりしてくれてるのは国土交通省、水資源機構、地方自治体。それから農林水産省とか土地改良区って系統のもある。ま、それぞれお役所とその予算によってやることなすことが違っていて、その多様性に貢献しているというわけである。それこそ観光気分で媚び媚びの水門から全くやる気のない水門までバリエーションも豊か。観察の対象としてはとても興味深いものです。 | ||||||||||||||||
つづく... 参考文献: 岡本芳美著/河川工学概説/工学出版/1994 水工環境防災技術委員会「水門工学編纂委員会」編/水門工学/技報堂出版/2004 ver.1.5.2 2006/08/01(ちょっと書き換えと訂正。中居→仲居、とか) ver.1.5.1 2006/01/08(ちょっと書き換え。全体を直したいがやめとく) ver.1.5 2005/12/31(役所名訂正・レイアウト変更) ver.1.3 2001/11/17(一部訂正・IE5でも読めるようにcss書き換え) ver.1.2 2000/07/20(一部訂正) ver.1.1 1999/09/02(一部書き換え) ver.1.0 1998/08/12 Copyright © Sato Jun Ichi 1998-2006 |